第5章 Beneplacito~承諾~
結局俺は昼食もご馳走になってしまい、静雄の家を出たのは夕方だった。
『お世話になりました 昼食美味しかったです』
「こちらこそありがとうね またいつでも来ていいのよ?」
『はい じゃあな静雄、幽くん』
「はい!」
「さようなら」
母親に挨拶をして、静雄と幽くんは手を振りながら見送ってくれた。
楽しい時間はすぐに終わるってのは本当だよな、っていつも思う。
学校は授業中はともかく、休み時間に友人と戯れたりふざけ合うのはいつもの楽しい日常。
静雄や幽くんといる時間も劣らない。
俺に心を許してくれて笑顔で応えてくれる楽しい会話。
静雄達の場合は癒しも含まれているな。
しばらく歩いていると俺の家に着いた。
ついそれに比べて俺の家庭は…という考えが過ぎってしまった。
―――ガッシャァアアアンッ!!
「もういい加減にしてよ!!」
「お前は黙ってろ!!」
『……』
まだドアに手をかけてないってのに、両親の声が聞こえる。
もう溜め息すら出ない。
俺がドアを開くとガチャッって金属音が妙に耳に響いた。
いい加減にしろってのは…
黙ってろってのは…
―――ドガッ!!
『こっちのセリフだ』
「!!」
いつかの日みたいに壁をぶん殴った。
でも"ただいま"とはもう言わねぇ。
『いつになったら仲直りすんのかと思ってたけどもう我慢の限界だ
修復どころか悪化してんじゃねぇかよ
くだらねぇ言い争いばっかり続けやがって…近所迷惑だ』
「徹…」
『もう戻れねぇんだよアンタ等は…いい加減諦めな
俺は諦めた』
「待っ、」
「徹!!」
言いたい事だけ言って俺は自分の部屋へ戻った。
これもまたいつかの日のように叩き付けるようにドアを閉めて。
戻った俺の部屋はさっきの怒鳴り声とは対照的に静寂に包まれていた。
だがすぐにガサガサと小さな音が繰り返される。
エナメルバッグを取り出して、必要なものをその中に入れている音だ。