第3章 Deterioramento~悪化~
痛みで軋む体を無理矢理動かして家に帰る。
…正直帰りたくないんだけどな。
ゆっくり歩いたとはいえ一歩一歩確実に近付いて行くと、とうとう家に着いてしまった。
『…ただ、』
「あの女は何なのよ!?」
『……』
ほら、やっぱりな。
俺が中学生になって変わってしまった事の二つ目だ。
玄関からでも聞こえる女の怒鳴り声は俺の母親のものだ。
「だからあれは仕事の…」
「この前の違う女にもそう言ってたじゃない!
仕事だからって何人の女と親しくしているのよ!
この女ったらしの浮気者!!」
「っ…黙って聞いてれば…俺が信用出来ねぇのかよ!?」
「この前まで浮気を隠してた男を易々と信用出来るワケがないでしょう!?」
…母さんが言った通り、親父は浮気をしていた。
親父の浮気が発覚したのが丁度俺が中学生になるあたりだった。
此処に引っ越してきたばかりの仲睦まじい夫婦の面影は…なかった。
前に親父は懺悔のように俺に言って来た。
浮気はちょっとした遊び心で、本心は母さんの事を愛しているんだと。
母さんは母さんで親父がいない時にブツブツと呟いていた。
信じていたのに…私は裏切られた…と。
「もう貴方なんて信じられない!!」
「お前だって礼儀として飲み会に行ったりするだろう!?」
「だからってこんなものまで貰わないわよ!
どうせまたいい女を見つけたから遊ぶつもりのくせに!!」
こんなものと言って母さんが親父に投げ付けたのはキスマークの付いた名刺だった。
悪気がないのかもしれないけど親父…それは誰だって傷付くと思うぞ。