ふたりで紡ぐ魔法の呪文/ワンド・オブ・フォーチュン【エスト】
第1章 第一章
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「どうして…戻って来たの?」
相変わらず顔を上げてはくれないあなた。
「ここに用事がある事を思い出したので」
本当はあなたが心配だなんて、傷つけておきながら言えるハズもない。
「どうして…隣に座るの?」
「どこに座ろうと、僕の自由だと思いますが?」
「別に…隣じゃなくても、いくらでも場所はあるじゃない」
素直なあなたが珍しく不貞腐れたような声で紡ぐ言葉。
泣かしたくせに、何で戻って来たの?と、その声は僕にそう問いかけている。
理由を説明しようにも、僕にも分からない。
僕はどうしてここに戻って来てしまったのだろう?
誰に対しても距離を置いて貰うために、冷たい態度を取るのはいつもの事。
なのになぜこんなにも胸が苦しいのだろう?
あなたが泣いていると思うと、居ても立っても居られない程に。
頭の片隅では理解している。
答えなどとうに出ていると。
けれどそれを認めてしまうのが怖い。
僕に未来などないのに。
僕に希望など必要ないのに。
決して手に入らないそれを求めてしまいそうになる。
「ここはあなたの場所なのですか?」
「そうじゃないけど…」
「でしたら、僕が座ろうと、なんら問題ありませんし、あなたにとやかく言われる筋合いもないハズですが?」