ふたりで紡ぐ魔法の呪文/ワンド・オブ・フォーチュン【エスト】
第1章 第一章
「もう、落ち着きましたか?」
泣いていたのを悟られたくないだろうと言う察しはついたので、言葉を変えて訊ねると、
「えっ!?」
驚いた顔で再びこちらを見る。
「まだ落ち着きませんか?」
嫌われた方が楽だと思いながら、嫌われてない事に安堵する。
そしてその安堵からか、知らず声音も柔らかいものとなる。
「ううん、もう、平気」
「では、戻りましょうか?」
そう言って立ち上がる僕に、
「あれ?エストの用事は?」
と訊ねられて焦った僕は、
「あなたが泣き止んだのなら、もう用事は済みました」
と、思わず口にしてしまう。
「今、なんて…」
ウッカリ出た言葉を何度も言えるはずもなく、
「行きますよ」
と、触れてる事を躊躇っていたこの手で、動かないあなたの腕を掴んだ。
そうして歩き出す僕に、
「…ありがとう、エスト」
と、小さく呟く。
結局あなたには敵わない。
心配で戻った事も知られている。
なのにあんなヒドイ言葉しか言えない僕に、それでもあなたは「ありがとう」と言うのだから。
もしも僕が偽ることなく、本当の闇属性の魔法使いだったとしたら、あなたと僕のこの関係は何か変わっていたのだろうか?
⇒第二章に続く