ふたりで紡ぐ魔法の呪文/ワンド・オブ・フォーチュン【エスト】
第1章 第一章
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何をバカな事を…と、自分でも思ってしまう。
自ら彼女を傷つける言葉をぶつけておきながら、後悔するなんてバカバカしい。
彼女を傷つけ、もう二度と関わらずに居られる事こそ、本来僕が望んでいた状況だと言うのに。
賑やかさを覚えてしまった僕の耳は、きっと明日もあなたの声を探してしまうだろう。
「…まったく」
はぁとため息を吐きながら踵を返す。
自分で自分に呆れてしまう。
近寄って欲しくないはずなのに、彼女と居ると心地いい。
1人で居たいはずなのに、彼女が居ないと落ち着かない。
僕は一体どうしてしまったと言うのだろう?
湖の畔の少し手前で足を止める。
駆けて来た事で上がった息を整えて、そっと近づく。
そこには湖に向かったまま、膝を抱えて蹲るあなたがいた。
小刻みに震えるその背中から、泣いている事が伺える。
僕が傷つけた。
だから、近づく資格などないのに。
頭ではそうと理解しているのに、僕は脚を止める事が叶わない。
あなただけは傷つけたくない。
それがきっと僕の望み。
無属性に生まれた事で傷付いてばかりの僕にとって、同じ無属性のあなたが幸せである事、それは望みなのかも知れない。
「…エスト?」
隣に腰を下ろすと、僅かに気配を感じたのかあなたが口を開いた。