ふたりで紡ぐ魔法の呪文/ワンド・オブ・フォーチュン【エスト】
第1章 第一章
彼女が突然現れた。
見なかった事にするようにと言い含め、冷たく別れたのが昨夜の事。
なのには、まるでなにもなかったかのように、今日も僕に付き纏う。
だから、愚かにも期待しそうになってしまう。
彼女なら、こんな僕を受け入れてくれるかも知れないと。
期待などしてはいけないのに。
僕に未来などないのに。
何かを望んでもこの手がそれを決して掴むことはないと言う事は、小さい頃から嫌と言うほど思い知らされて来たじゃないか!
それでも愚かな僕は、あなたがくれる無償の優しさに心地よさを感じ、甘えてしまいそうになる。
「………エスト…」
泣き出しそうに紡がれた名前に、胸が苦しくなる。
そんな顔しないでください。
あなたには笑顔の方が似合うのだから。
けれど、僕にはあなたを笑顔にする術がない。
だから、他の人の所に行った方がいい。
ユリウス、ノエル、ビラール、ラギ、アルバロ。
彼らなら、きっとあなたを笑顔にできるし、あなたの望むものを与える事も出来る。
「…次の授業の準備がありますので、僕はこれで失礼します」
そう言い残して、彼女を残し湖の畔から背を向ける。
あなたは泣いているのだろうか?
気にした所で意味などないのに。