ふたりで紡ぐ魔法の呪文/ワンド・オブ・フォーチュン【エスト】
第1章 第一章
未来などないのなら、いっそ、早く闇に葬られたい。
そう願っていた僕に、その瞬間をもたらすのが、その迷惑な転校生だと、その時の僕はまだ知らなかった。
「、どうして僕に着いて来るんですか?」
「エストとお話ししたいんだもの」
「申し訳ありませんが、僕には、あなたを楽しませるような話題はありませんが」
「話題は私が考えるもの!」
「はぁ…あなたにはハッキリ言わないと伝わらないようですね?迷惑だと言っているのです」
僕の言葉に、しつこい転校生の瞳が揺れた。
好きで傷付けている訳じゃない。
だから、1人を好んでいたのに。
初めから冷たくしているにも関わらず、鈍いのかなんなのか、全く気にすることなく会いに来る。
そんな彼女のしつこさと強引さに、時折負けてしまう事もあったけれど、見られてしまったから。
闇の鎖で自らを封印している魔法を。
人は異質なものを恐れるから。
極力目立たないように過ごすため、僕は人には過ぎた魔力を使い、闇の鎖で自らを縛り付けた。
その魔力を抑える為に。
そうしなければ身体中に…顔にまでも刻まれた忌々しい刻印を人目にさらす事になるから。
その封印が解けてしまわぬように、定期的に夜に寮を抜け出して、魔法を掛けている僕の元に、動物的な勘なのだろうか?