第1章 不意打ち【影菅】
全身が総毛立った。
心臓は忙しなく警鐘を鳴らす。
通りのない道を挟んだ向こう側。
ピンと張り詰めて、ひとつ物音でもたてれば何かが零れ落ちてしまいそうな空気。
今、一番会いたくない奴が、そこにいた。
「影山......」
目を凝らして見れば、額や首筋に浮かんだ汗に、乱れた呼吸。
走ってたのか、こんな時間まで...。
どこまでストイックなやつなんだ。
嫉妬に身を任せて自棄になって走ってた俺とは、違う。
影山は、上しか見ていない。
きっと誰よりバレーが上手くなったって、向上心を捨てることはないだろう。
ただ誰よりバレーが好きで、バレーを楽しんでいる。
絶対的な差を。
たった今見せつけられた。
この遠く離れた距離を、縮めることなど、できるのか。
ばっちりと目が合った。
何も発しない俺に、純粋に、不思議そうに眉を顰めている。
俺は今、どんな顔をしているだろう。
きっと、嫉妬に歪んだ醜い顔をしているんだろうな。