第1章 不意打ち【影菅】
俺はいつの間にか走っていた。肌を刺す風を切ってただ、走っていた。
周りの音は聞こえなかった。荒くなる息遣いと鼓動だけが、耳元で喚いている。
なんだって烏野に来たんだ。
勢力的に考えれば、影山がうちに来たことは大きい。
落ちた強豪。飛べない烏。
再び全国に駒を進めるために、影山は確実に必要となるだろう。
烏野の、"セッター"として。
国道とは名ばかりの、寂れた道に出たところで信号に捕まった。
膝に手をついて、真っ白な息を吐き出す。
オレンジ色の街灯の光が、俺の背中に絡みついて離れなかった。
自分の影で真っ黒に染まった地面を蹴る。ギリギリと音が鳴るくらい拳を握り締めて、膝に叩きつけた。
「クソッ......」
ぐにゃりと視界が歪む。
手の甲に冷たい何かが降った。
コートの上に、俺の居場所はもう、無い。
俺のトスを呼ぶ仲間の声も、
背中を叩く叱咤の掌も、
仲間を奮い立たせる雄叫びも、
沸き立つような興奮も、
噛み締めた悔しさも。
もう、もうーー
「菅原、先輩?」