第1章 不意打ち【影菅】
いつの間にか青になった信号に、影山が此方側に走ってくる。
俺の目の前で足を止めた。
俺の顔を見て、息を飲んだような顔。
なんだよ。何も言わずにどっかへ行ってくれよ。
お情けなんていらないから。
いっそ笑ってくれよ。
諦められるから、それで。
影山が口を開いた。
「菅さんも走ってるんすね。
......俺も、負けねっす」
「は......?」
横を通り過ぎて走って行った影山の背中を呆然と見つめた。
負けないって......
俺なんて、影山の眼中にはないと思ってた。
レギュラー入りが当たり前って思っているんじゃないかって。
ああ、やっぱりあいつは。
深く深く溜息をついた。
きっとあいつは、誰よりバレーが上手くなったって、満足なんてしないんだろう。
ただ誰より負けず嫌いで、誰より努力家で。
また絶対的な差を見せつけられた。
この遠く離れた距離を、縮めることは
いや、
もう吹っ切れた。
やってやろうじゃないか。
乾きかけた涙を拭って歩き出す。
あれ、俺、泣いてたんだっけ。
あいつ、何も言わないで...
ピンと張り詰めた空気が弾けて、何かが零れ出してしまった音がした。
END