第6章 名前
『それは“岩泉くん”じゃなくて、“一くん”って呼んでほしいってこと?』
俺は静かにうなづいた
呼んでほしい
お前の声で、俺の名を
「名前で呼びたくなった。し、名前で呼んでほしい」
『奇遇だね。私も今そう思ったところ!!』
俺達は見つめ合って笑った
そして、静かにキスをした
次の日
苗字から名前呼びへと変化した俺らの姿を見て
クラスの奴らはいつものように冷やかしてくる
これにもいい加減になれた
適当にあしらって流せば、
「これでやっと本物の男になったな」と、意味不明なことを言われた
一歩ずつ、少しずつ、俺たちは自分たちの中にある想いを育てている
こういう経験をしたことがないから、くすぐったくて、でも嫌ではなくて、むしろ幸せだとすら感じた
だから、この後に起こる現実を俺は信じたくなかったんだ