第6章 名前
俺は彼女の背中に呼びかけた
「なぁ、」
くるりと振り向く
『名前で呼ぶの2回目だね』
あ、覚えていたのか
「いや、名前で呼んだ方が嬉しいのかなって思って」
『んー……そうだね。どちらかというとそうかもしれない』
手を顎にあてて考え込む
しかし、俺の顔をみつめ笑って
『でも岩泉君が私のことを呼んでくれるだけで、私は嬉しいよ。それが苗字でも名前でも』
自分と同じことを考えていたことに驚いた
「はい、終了~」と言って彼女はカバンを背負う
図書室の電気を消して、家に帰る
歩きながら、俺は彼女に聞いた
「初めてお前が俺のこと名前で呼んだ時、心臓が締め付けられるくらい嬉しかったんだ」
不思議そうには俺の顔を見る
俺は立ち止まって、彼女と向き合った
「俺も同じだよ。俺もお前に呼ばれるだけで嬉しいんだ」
『うん』
「あの時、苗字で呼ばれる以上に嬉しかった」
『私もだよ。名前ひとつでこんなに違うんだって思った』
「ずっと呼んでほしいって思った」