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Hello,Good bye【岩泉一】

第23章 Hello,Good by Day




4月2日。

「よし、荷造り終わり!」

キャリーケースに鍵をかけて、俺は額の汗を拭いた。
ひどくこざっぱりした部屋を見渡して、少しだけ寂しくなる。

18年間暮らしてきた家。
高校まで徒歩25分。
及川や友人たちを連れ込んでばか笑いしたり、
試合で負けて悔しくて泣いたりもした部屋がひどく愛おしい。

親にも見せたことのない俺を、この部屋だけが知っている。

そんな思い入れ深いこの部屋を、俺は今日出て行く。

「一!ちゃんが来たわよー」
「おう、今行く!」

ショルダーバッグを下げて、キャリーケースを運ぶ。
大きな荷物はもう既にアパートの方に運んだ。
後は、アパートに行って荷物整理して、明後日の入学式を待つだけ。

親と玄関先で軽く話して、俺達は旅立つ。

の車いすを押して、駅へと向かう。
駅に着いたら昼食を食べよう。
それくらいの時間はあるはずだ。

と、その時。
駅に向かう途中、及川たちを見つけた。
俺達の向かい側の歩道。
あっちは俺達に気が付いていない。
時折笑っていたから、なにか面白い話でもしているのかもしれない。

それをじっと見つめていた。
すると、は

『話しかけなくていいの?』

と、問いかけてきた。
俺は「ああ」と答える。

お別れの言葉は昨日のうちに済ませた。
短い時間だったけど、それでもよかった。

及川、花巻、松川の3人はたった一言、声をそろえて
「次に会う時はコート上だから」と言った。
その言葉に思わず噴き出したのを思い出す。
バレー馬鹿だなと思う。
俺も人のこと言えないけど。

それがどれだけ嬉しかったことか。

だからもう話しかけるべきではないと思った。
今はなしかけたら言わなくてもいいことまで言いそうだ。


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