第1章 34円と弁慶の泣きどころ
放課後の校庭は、なにかしらさむざむしい。
「放課後はいいねぇ、リリンが生み出した文化の極みだよ♪」
秋晴れの校庭で、最終回が一向に公開されない映画に、思いを馳せながらつぶやいた。
僕の名前は、津倉マナブ。
中肉中背のこれと言った特技も無い、ごくごくフツーの高校2年生だ。
カキーンッ!!
青空に放物線を描く白球、放物線の先を目指して全力で走る高校球児。
「タッちゃん!
南を甲子園に連れて行って!!」
新操部の子が叫びながら抱きついた。
イケメン野球部顧問の先生に………
あの先生、新婚さんじゃ無かったっけ?
先生もまんざらでは無さそうだ。
思う。
人生は不公平だ、例えばイケメンならそれだけでモテる。結婚も出来れば、女子生徒にも懐かれる。
そして女の子も可愛ければ、随分とお得な人生を送るだろう。
現に、可愛い女子生徒に抱きつかれた先生の中では、彼女の内申点は、赤丸急上昇中だろうし………
「人生はクソだな、真面目にやるのバカバカしいや……」
浜辺に打ち上げられたシーラカンスを見るような目で、先生達を見ている僕たちは、赤丸急下降中ストップ安間違いなしだ。
僕と同じ感想を持っているであろう、野球部の面々の顔にもコピペしたように書いてあった。
カシャッ!
イチャつく二人を、念のために携帯カメラで撮っておく。
自衛のために後々、使えるかもしれない。
爽やかとはかけ離れた、昼ドラ並みにドロドロした高校球児たちを尻目に、帰宅部の僕は校庭を歩いて校門に向かっていた。
「待ってたぜ♡」
校門で僕を待ち伏せしていたらしい。
とうとう僕にもモテ期が来たか。
ガチムチ大男の弁慶コスプレおっさんに……
「僕は牛若丸じゃないですよ?」
ホモでもない。
そんな僕たちの物語が始まった。