第3章 35円と価値の変わらないもの
バスと電車を乗り継いで、約一時間後。
僕達は二つ隣の市にある、海岸沿いの道にいた。
「って何でさっきの瞬間移動使わないんだよ!」
「うっさいわね!行ったことのない場所には行けないのよ!!」
彼女がいた未来には、まだ「どこでもドア」は無いようだ。
……って、そんな事より!何もない!! 寒い!!!
「さてと、あと5分で彼女が来るはずなのよ。」
「彼女って?」
「うん、ここで交通事故にあって車椅子の生活になる女の子がいるんだけど。
彼女は将来STEP細胞という、超万能細胞を発見する科学者になるのよ。
STEP細胞はあります!の名ゼリフは世界的に有名なのよ?」
「STEP細胞ってなんの略?」
「……って、え…っと…
SすんげーTてらすんげーEえらいP(ピー)細胞なのよ!!」
「おいっ!!絶対いま適当に考えただろう!! って最後のピーってなんだ!?
放送禁止用語か!?不祥事続きで、とうとう未来の万能細胞放送できなくなっちゃたの!?」
「ち、違うのよ!?別に知らなかった訳じゃないんだからね!
未来の情報を漏らす訳にはいかないから、フェイクを入れただけなのよ!!!
知らなかった訳じゃないんだからね!!!」
「………」
ジト目で彼女を見つめる僕、大事な事をわざわざ2回言ってくれたので、真相は大体理解できた。
未来になっても、人の習性は変わらない様である。
と、そこで彼女の言葉の矛盾に気付く。
「情報すら与えちゃいけなのに、過去を改ざんしちゃって良いの?
君がこれからしようとしている事は、さっきの「弁慶さん」と変わらないんじゃないの?」
「いい所に気が付いたわね、35円! 500万円未満の改ざんなら、必要経費で認められるのよ!
彼女の場合は、障害の有る無しに関わらず、研究に生きる人生を歩む事はシミュレーションでも明らかだから、
ここでの歴史改ざんの現金価値は、30万円程度なのよ♪」
「ふーん…」、と聞いておいて気の無い返事をした。
別に30万円が大したこと無いなら、35円の自分って一体…って、ひがんでいる訳ではない。
決して、ひがんでなんかいない。