第5章 『食事』
“練習”は通常業務が終わってからするとのことなので私はそれまで店の中でゆっくりと待つことにした。
いつもはそこまで長居もしないのでコーヒーしか頼まないけれど、今日は閉店の時間までいる予定なので、かなり時間がある。
ということで、「あ、お腹すくじゃん」と思い至り、私は「あんてぃく」で初めてチョコブラウニーを頼んでみることにした。
しばらくすると、あの時、一緒に金木と永近を運んでくれた女の子がもって来てくれた。
「お待たせしました。ブラウニーです。」
ニコリと営業スマイルを浮かべていた。
「ありがとう。
あ、この前はありがとう!助かった!」
私がお礼を言うと向こうは驚いたようで少し目が大きくなった。
でも、直ぐに元の状態に戻り「ゆっくりして行って下さいね?」と言って立ち去ろうとした。
私はそんな彼女を咄嗟に引き止めて名前を聞いた。
「霧島トーカ、です。」
(いきなりなに?)
「いきなりでごめん。名前聞いてないなと思って」
(金木君が呼んでるのを聞いてるから知ってるといえば知ってるんだけど)
「私は安部陽菜。よろしくね?前の時名前を言い忘れていたと思って」
「そうでしたね。…安部さん、ひとつ聞いてもいいですか?」
(金木のやつがいない今なら聞るか?)
「いいですよ?なんですか?」
私はニコリと笑って快く頷いた。
陰陽術のことや、本当に人かどうか、何てことを聞かれるんじゃないかと思っていたが、
「…やっぱり、後でいいです。閉店までいらっしゃるんですよね?」
「え?あ、うん。 そうするつもり。
…質問については24時間ウェルカムだから構わないんだけど…あのさ、トーカちゃん敬語使わなくていいよ?
その方が私も楽だし。私も素で話すし。
それに、名前も陽菜でいいよ?長いでしょ?」
「……確かにね。そんじゃ後で。
何を見ても後悔すんなよ」
(いきなり名前で呼ばれるとはおもわなかった)