第12章 『本性』
そうしてると西尾先輩の呻き声が聞こえた。
「そいつは、違う…」
それだけ言ってまた西尾先輩は唸りながら黙った。
「えっと、ごめんなさい。私のはやとちりだったみたいで…」
「いえ、私が勝手に上がってきたせいだから」
苦笑しながら私はそう答えた。
面倒を見てそうな人がいることに安堵して私は足早に帰ろうと玄関へと向かった。
その後ろをパタパタと女性がついてくる。
そして玄関を出てすぐに呼び止められた。
「あの、私は西野貴未。貴方も喰種でしょ?」
「私は安部陽菜。…私は喰種じゃないよ。」
「え、じゃあ何で…」
(うそっ!もしかして錦君のことがこの子も好きとか!?)
みるみる目が開かれて行くのを見て私は苦笑いを浮かべながら言葉を足した。
「ああ、別に好きとかじゃないですから。
ちょっとした知り合いといったものです。
勿論、先輩が喰種だってことはわかってます。今回は偶々、倒れてるとこを見つけたから連れてきただけなんで。
こっちからも一つ聞いていいですか?」
(喰われかけたことは言わなくていいよね)
「そうなんだ…。はい」
(人なのに喰種を助けるなんて…。私には側で見ることしか出来ないのに)
「じゃあ、貴方は人間なのにどうして西尾先輩といるんですか?」
「それは、私が錦に助けられたから。
彼がいなかったら私は自殺してたと思う。
だから私の命は錦のために使う。」
「西尾先輩が人を殺していたとしても?」
「…彼には死体が必要だから。
私は自分の家族や友達が殺されない限り見て見ぬ振りをする。」
「西尾先輩は幸せですね。こんなに心を傾けてくれる人ができて。
もし、何か助けがいるときはコレに連絡してください。きっと力になれる。」
私はメモにさらさらっと連絡先を書いて渡した。