第11章 『レストラン』
「もう、悠長に隙を探してられない。自分で切り開くよ」
(ナウマクサンダバサラダンカン。憑依せよ阿修羅)
私の身体を薄く赤い膜が覆った。
それを確認してから私は手と足に意識を集め、一層濃い膜で強化した。
相手から見ればただじっとしてるだけで変化なんてわからないがこれで私の体を簡単には傷つけられない。
「行くよ…」
(こんなとこで血を流したら大惨事だ)
私は誰に言うでもなくそう言って男へと殴りかかった。
目にも止まらぬ速さで急接近し、脇腹に右フックを決めた。
「おおー。やるねぇあの人間」
「こっちは腹が減ってるんださっさと仕留めろ」
「あんな動きできるやつがいるとはな」
好き勝手にそんなことを言ってる。
それを、無視して敵を見ていたらこちらへ猛突進してきた。
重心を後ろに傾けてしまったせいで、上手くよけきれずに腕で振りかざされた糸鋸を受け止めてしまった。
「くっ!」
(やばっ!血はでないけどどう考えても怪しまれる。)
「陽菜ちゃん!!」
(くそ!動けよ…!!!)
予想通り血は出なかったが、人間としては異常過ぎた。
相手もその異常に気づいたようだ。
そんな時に月山が「例のものを」と係りの者に言うや否や、スーツを着た係りの者が少し見覚えのあるアタッシュケースを持ってきた。
「あれって…」
(亜門さんたちが持ってるやつに似てる気がするけど…喰種がそんなものを持ってるはずないだろうし)
そう考えながら相手の動きを観察していたら。
ジャキンッ!
「マジか…」
(ヤバイかも)
男が構えたのはクインケだった。
周りの客もクインケが出てきた事に難色を少し漏らしたが喰種である、金木や糸鋸で傷のつかなかった私たちを捌くにはクインケが持ってこいだと気づいたようだ。