第4章 触れ合う劔の涙 安倍蒼世 切
いつものように表へと出る
この時間は、やけに腕が疼く
夏という蒸し暑い日
お前の真剣な顔がいつまでも頭から抜けない
けれど俺もお前も願いが叶う日はこない
-触れ合う劔の涙-
「遅い!」
剣が触れ合うその瞬間、金属音が周囲に響き渡る
剣は重く全てを背負って振っているような、いつもそんな気持ちにさせられる
目の前で俺に向けて剣を振りかざしてくる女も同じ気持ちなのか
そんな事を考えながら交えていれば、隙が空きそこに相手の剣が振り込まれた
だが、これは敢えて作っておいたもの。まんまと引っかかるこいつも、まだまだ普通に罪人相手に剣が振れる訳がないと思った
「甘いな。いつも、いつも…」
左から胴に向けて入れられた剣を弾き飛ばして俺は右肩を狙う。肩を守らなければいけない、咄嗟に相手の剣は守備に入る
こいつの弱点は左右への振りが遅いこと。それを狙って左の足へ剣を持って行き峰打ちで相手の手へと剣を持ち上げて行く
「あっ!」
一瞬、叫び声をあげた琉璃手から弾き飛ばされた剣は、こいつの足場へと転げ落ちる
赤と銀色が太陽によって眩しく映る
そんな、こいつは俺が昔から妹のようにしてきた奴で最近では犲に入りたいと俺の右腕になりたいと言っている
それだから毎日、ここへ来ては手合わせをするのだが、足元にも及ばない。それに俺に勝てた試しもない
「お前の剣は甘い。先を読んでない上に左右への振りが遅い。そんなもので俺の補佐が務まるとでも?とんだ甘えだな…使えない奴は要らん」
そうすれば、いつものように涙を流す琉璃
俺が思うにこいつは確実に成長しているし始める前に比べれば着実に良くなっている
しかし至らない部分が多いし戦闘になったら危険すぎる
だが俺はそれに安堵している
お前に血を流させたくはないし、それを見せたくもない
敢えて冷たく言い切り突き離すことによって諦めてくれることを望んでいる
「蒼世!もう一回!わ、私…絶対補佐になる。貴方の補佐に!だからお願いします」
地面にへたり込んで泣いていた琉璃は涙ぐみながら剣を再び向けてきた
その意思は嫌いではない剣を振るう者は、これくらいで挫けていたら話にならない
「…来い」
揺るがない瞳
俺の揺るがない思い
それを合わせて交える剣は涙をいくら呑んだか
伝わない両者の思い
見えぬ零れた涙に刃を振る