第1章 第一章
瞬間、体に衝撃が走った。
何――?
景色がシュッと変わった。
私の体を奪われた感じ。
ううん、誰かに抱き抱えられている感覚。
「通り魔とは……。僕は何も感じないけど、このお嬢さんには酷じゃないですか」
頭上から降ってくる透き通った声に、声の主を見上げると、格好いい齢十六くらいの少年が遠くを見つめていた。
私……助けられ……。
え?嘘!?
私は顔を少年の見ている先に向けたら、さっきの男が立っている場所がとても遠くに感じた。
この少年の人……!!
今の一瞬でこんなに遠くまで!?
「あのっ」
お礼を言おうとしたら、
「大丈夫ですか?」
と心配そうに見つめられた。
透き通った目に見つめられ、思わず頬が紅潮してしまった。
少年は私を下ろし、
「下がっていてください」
と言って、抜刀術の構えを取り、地面を蹴ると消えた。
刹那、さっきの男の首が天高く飛んだ。
血しぶきが音を立てて宙を染める。
少年の姿が現れた。
少年は刀を鞘に納め、黙って暫く後ろ姿を私に向けていた。
「お嬢さん、見たところ抜刀術が使えるみたいですねぇ」
そう言うと、その少年が私の方を向いて微笑んだ。
……強い……。
この人……恐ろしく強い……!!
ハッ。
「お父さん!!お母さん!!」
私は泣きながらお父さんとお母さんの遺体に駆け寄った。
「ご遺体を葬りましょう……」
少年が私のそばに歩み寄ってくる。
私は倒れているお母さんの胸元に顔を寄せて号泣した。
お父さん……お母さん……!!
さっきまで一緒に会話していたのに!!
少年が私のお父さんの首と体を抱え上げた。
「お嬢さんはお母さんのご遺体を。あ……運べますか?」
少年が、気持ちが引き裂かれている私の心情を察して、気を遣って問い質している。
「はい……」
私はお母さんの体を抱き抱えて立ち上がった。
お母さんの首に手を伸ばす。
手が震える。
お母さん……っ。
涙が滴る。
お母さんの首を抱え上げ、お母さんの体に乗せる。
吐き気を催す。
少年が歩き始める。
私は黙って少年の後についていった。