ときめきメモリアルGirl's Side【佐伯瑛】
第1章 珊瑚礁ブレンド味
.
「あぁ、この前佐伯くんがここに入るのを見てたから」
「見てたって…」
「えっ?あっ、違うよ。私は別に佐伯くんがどこに行くのかとか気になってたんじゃないからね?たまたま、偶然に見かけちゃっただけだから…んっ」
慌てたお前は、カレーパンが胸につかえたのか、突然苦しそうに胸をポンポンと拳を作って叩き始めた。
あぁ、もう。
本当にドジなんだから。
お前に渡された袋の中から缶コーヒーを取り出す。
缶を開けて差し出すと、涙を浮かべむせながらも「要らない」と首を横に振る。
「いいから、飲めって」
断るお前に半ば無理矢理コーヒーを飲ませる。
「…はぁ、ありがとう」
「どういたしまして。…お前、コーヒーって嫌いじゃないよな?珊瑚礁で働いてる訳だし」
「うん、嫌いじゃないよ」
「じゃあ、何で…」
俺が差し出したコーヒーを一度断った事が気になり訊ねる。
「あっ、これ?」
手にしたままの缶コーヒーを見せるお前。
「あぁ」
「これ、佐伯くん好きでしょ?…最後の一本だったの。だから…。でも、私が口付けちゃったから、もう要らないね」
バカだよ、お前。
本当にバカ。
優しくしてやりたいって、本当はいつも思ってる。
なのに…。
いざお前を前にすると、どうしても素直になれなくて。
意地悪したり、憎まれ口叩いたり。
なのにお前は…。
「返せよ」
お前の手から缶コーヒーを奪い返す。
「えっ?」
「これも俺のだろ?」
奪い取ったコーヒーを一気に飲み干す。
ジッと見つめるお前の視線を感じながら。
「ねぇねぇ、どう?」
隣に座ってるお前が肘で俺をつつく。
「はぁ?何がだよ?」