第5章 【オメガバース】 月島 影山 菅原
終頁。次頁、エピローグ
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全部計算尽くだった。あんな大胆な行動に出れたのも、結局わたしは全部見限っていたからだ。
思いも気持ちも全部さよなら、谷地さんがわたしと繋げようとしていた糸は、今後に影響がないようそっと切った。心はどうだかわからないけど、彼女は問題なく他のαとつがえる。
この世へのせめてもの復讐だった。同じ男と女なのに、愛しかのこらず結果はない虚しいものなど、苦しいだけだ。醜い傷を抱いたまま、お互い生きていく。この先もずっと。
いつの日か好きな人と隔たれた壁などなくなってめぐりあえるように祈りながら、電車で違う街へこぎ出る、みんなに何も告げずに。
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「時縞なら、ずっと前から違う地方へいくことが決まっていたよ。彼女が話したくないうえに夏休みの終わるギリギリ前、君たちの模擬試合まで滞在すると言うから、こうして始業式に明らかになったわけだが」
影山と谷地は、雷を受けた衝撃のようなものに揺られて、職員室前に立ちすくんでいた。教師に言われた言葉が、リフレインする。ずっと前から、違う地方へ。
「影山くん……」
「最後だからってことかよ、あの、馬鹿が」
やるだけやって帰って行ったあのマネージャーに、バレー部は散々振り回された。体育館のバレー部室の戸棚にびっしりと置いてある部員ひとりひとりへの手紙を泣きながら読み、かつてなくぴかぴかになっていたバレーボール、器具に驚き、次の日に届いた全員分の御守り。
時縞は、烏野男子バレー部を心から愛していたわけだ。
影山は、つい昨日の夢に似た出来事を思い返していた。汗に混じって涙まじりの声を、あの日、聞いていた。なんどもなんども、愛を囁いた、時縞のくちびるを。
『すき』
『お願い、わたしのこと好きになって』
『なれないなら嫌ってよ』
『影山』
どうして今更、Ωにいだくような気持ちとは違うあたたかいものがあふれているのだろう。彼の頭の中は混乱でいっぱいになっていた。あったけえ、かなしい、くるしい、さみしい、きらい、だいすき、あいしてる。ぐちゃぐちゃの感情がたらいまわしのまま、影山は手紙を握って彼女の名前を囁いた。