第5章 【オメガバース】 月島 影山 菅原
もうこれ谷っちゃんの夢かもしれない
そういうのを匂わせる描写あり
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『緋紗ちゃんならいい、あの、お願い』
正解はない。
『つがいに、なってください』
けれどわたしはその関係の中に組み込まれるべきだと。
『すき』
わたしも好きだったのに。
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部屋から出たわたしを待っていたのは影山だった。呆然と立ち尽くしているその天才を、笑った。嗤った。永遠に選ばれることのないわたしを嘲笑いながら。
「時縞……谷地さんは」
「もう平気そうよ。安心していい。今休んでる」
それだけ言って立ち去ろうとすると、容赦ない強い力で肩を摑まれた。
「痛っ…何するの」
「お前……谷地さんのこと好きなのか」
――この馬鹿な男は今更何を言っているんだろう!
そして影山にかなしい期待を抱いていた、わたしも相当な阿呆だ。
わたしは、わたしの幸せを追いかけることも許されない。誰の幸せも願えない、角っこに追い詰められていた。
どうせ幸せになれないなら。
「もうまどろっこしいのはやめにしようか、影山」
青みがかった黒眼が限界まで開いている。
同時に二人を裏切り、二人をわたしの体でごちゃごちゃにして、全部取り返しのつかないことになる前に、誰かわたしの目を覚まして。
「わたしは影山が好きよ。αとかΩとかどうでもいいの。もう、」
どうなってもいい。
胸倉を思い切り引っ張った。なす術もなく傾く影山、その薄い唇を奪う。むさぼる。しばらく、彼は動かなかった。
彼はわたしを拒めなかった。立ち入り禁止の札が立てられて誰もここに立ち入れない、人はあと小一時間ほど来ない。突き当たりの壁沿いにずるずると背中を滑らせて、座り込む。
惚けてしまって何もできない影山の吸う息を全てを奪っていく。苦しそうにあえぐ、何も喋れない彼を見てまた嗤った。
ジジジ、とジャージのジッパーを下げていく。酸欠で抵抗らしい抵抗ができない影山の脚の上に股を開いて座り、着替えたばかりのTシャツの中に指を滑らせる。
「っ時縞、やめろ…!」
αなら抵抗してさっさと谷地さんを奪いにでも行きなさいよ。もうわたしの息がかかった谷地さんを。きっと、わたしたちの声を聞いて戸惑っているであろう谷地さんを。
「意気地無し」
最低なだけのピエロはわたしだ。