第5章 【オメガバース】 月島 影山 菅原
少し距離を置いて、気まずそうな彼女の前を歩いていた。
彼女がどうしてわたしを名指ししたのか、それは以前にわたしが彼女のヒートを前に耐えたから、一応女だから、という理由もあるだろう。
抑制剤が効いているみたいで、彼女から感じる濃密な気配はもう薄れている。
たどりついたドアを開けて彼女を部屋に入れ、わたしは入らない。
「谷地さん」
「っひゃいぃ!」
「そんなに驚かなくていいから。谷地さんが完全に落ち着くまでは部屋の前で見張ってるから。心配しなくても――」
言いかけた時、ジャージの裾が引かれる。鼓動が嫌なリズムを刻んだ。
「ま、待って」
顔を赤くして、初めてと言っていいほど彼女は目を強気な瞳で睨むように合わせた。
「お願い。緋紗ちゃん、……ここにいてくだひゃい」
噛んだ。
思ったより強引に袖を引かれて、ふら、と前傾した時に、扉が閉まる音を、どこか遠くで聞いていた。