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HQ短編‼︎

第5章 【オメガバース】 月島 影山 菅原


その試合は、特訓と称された模擬試合だった。

だからわたしも谷地さんも本来の試合なら1人しかスタンドに入れないところを先輩マネの清水潔子さんと一緒に見守れていたわけだが、今回のも殊更、相変わらずと言って良いものか、日向影山コンビは、体育館のライトを背にとんでもない威圧感を放っている。
最初に比べて随分と余裕ができたものだ、と過去を思い返せば、顔面レシーブやすれ違いやなにやら大量の黒歴史まがいの思い出ばかり。
これだけのプレーをするようになったのだから顔付きが違うのも頷ける。
そう思っていたわたしの思考を読んだのか、烏養監督がこちらを見て唇を曲げた。

「おう時縞、考え事してんのか。模擬試合だからと言って俺らが圧勝できると思ってるか?」

「何を馬鹿な。あの頃に比べて、全員がめっきり変わったなあと感慨深くなっていただけですよ。それより監督、影山あまり目の調子良くないようなので、後から申告を」

「お、おう……お前、よく分かったな」

「そんなこと言っていると監督失格の烙印を捺(お)されますよ」

先ほどのトスの軌道がほんの僅かにずれていたのは、流石に見逃せなかった。日向影山コンビにしか違和感がわからないと思ったら大間違いだ。
今日は日向の動きが良いので、この試合はおそらく有利に進むだろう。
けれど、「あの」影山が、精神のコンディションがすこぶる良いのにミスをすることがある意味異常と呼べる。
振り向きざまに烏養監督を茶化して潔子さんのもとへ向かう時に彼が、

「今年の1年は良くも悪くも化け物揃いだよ、全く」

と、嘆息しつつも愉快そうに言ったのも、聴き逃すわけがない。誰が化け物だ、あんな良い意味の怪物と一緒にされてたまるか。
つくづく己の地獄耳を笑いながら、試合は佳境へと向かっていた。
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