第5章 【オメガバース】 月島 影山 菅原
「「おつかれっしたー」」
今日の部活も無事に終わって、ほうと一息をつく。何だかクラクラする。体育館の熱気に当てられたのか、風邪かそれとも貧血か。……いや、違う。嫌な予感ばかりが増していく。
部員達の群からふらりと抜ける。あっちに、自動販売機があったはずだ。「緋紗ー?」と西谷が呼ぶ声に、振り返らず「飲み物ー!」と答えた。
はやく。はやく、みんな帰ってくれ。
みんなが視界から消えた瞬間、体がくずおれた。あつい。まずい、これは----
「やだ……っ、何でいま、……」
おかしい。三ヶ月経つより、随分と早い。けれど自分の体が熱に浮かされているのは明白で、脚には力が入らなくて。息が荒くなっていく。ヒートだとわかるには十分すぎた。そして、そのヒートを止める薬は家。
「き、よこ、さ……ん」
ごめんなさい。今更、大丈夫じゃないです。
地面に這いつくばって自分で自分を抱き締める。おさまれ、おさまれ、おさまれ、
「おさまって……ッ」
唇を犬歯で噛む。噛みちぎる勢いで、噛み締める。
「……時縞先輩?」
「‼︎」
まずった。最悪だ。このタイミングで、
「つきっ……し、ま、……っ」
平静すら装えない。情けなく声が震える。普段見ない私の異常な様子に、見るからに彼は戸惑っている。
けれど彼は、……『α』だ。
せめて田中とか縁下とか山口とか----。βの人間だったら。
「‼︎……まさか、この匂い----先輩、まさかΩ……?」
「……ぅ、っ」
「でも、時縞先輩、βだって……」
月島はΩの匂いにあてられるのを恐れているものの、助けようとしてくれているのかしゃがんで肩に触れようとする。朦朧とする視界に、二の腕に思い切り爪を立てる長い指が見えた。
……理性を保とうと、してくれている。
思わず、掴む。月島がびくりと肩を揺らす。そっと、その指を外す。ワイシャツに薄っすらと赤がにじむ。
「駄、目……わ、たしのこと、は、いいから……はやく行って……?」
「先輩……」
「もし、かえ、らない、なら、……ッ、田中か、えんのした……--------ッッ‼︎」
「いや、です」
力なく座り込む私の体を、月島が抱き締めている。お互いに息が荒いまま、傷の痛みだけで焼き切れそうな理性を繋ぐ。
「僕が助けます」
理性の前に、意識が焼き切れた。