第4章 菅原孝支 思惑の指先 ②
基本菅原は一日に何回かは必ず澤村の所に来る。澤村の席の周辺には男子の群れができるので、尚更だ。
因みに私は滅多に席を立たない。たまに友達が寄ってきて、お互いに次の授業の予習とかをしたりする。
例外は菅原が寄ってきた時だ。その時ばっかりは、席を立っていた。つい昨日まで。
「大地! 」
また菅原が澤村に話しかけに来る。心なしか青ざめている澤村の隣で満面の笑みの私。いつものように席を立たない私に、菅原は少し驚いている様子である。
一言二言話してから、自分の席に戻ろうとする菅原と故意に視線を絡ませた。これにはかなりびっくりした様子の彼が、慌てて席に戻り、なにやら指をいじっている。
いつもの避けるスタイルじゃなく煽っていくスタイルでいく。こっちも負けてられるか。
と意気込んでいると、澤村が「あんまり虐めてやるなよ。可哀想だ」とフォローした。
「されたことの仕返ししたら駄目?」
「いや、もう十分過ぎる仕返しだろうよ、あいつには……」
(何あれやばいんだけど)
本気になって仕返ししようとする、謎の気合が入った緋紗に早くも陥落しかける。
(キスした次の日なのに何であんなに余裕なの? それとも……)
いや、あんなこと言われた後だし、無いか。 菅原はしきりに指を弄りながら考えていた。
最初は二年の頃。日直の当番の時、仕事を分担しようとして、全部やられた。その次も、「部活の人の代わりにやるのが仕事だ」とか言って。
彼女は他の人に頼まれても二つ返事でOKする。作り笑いだけども、自分へ向けるものよりもっと柔らかい。
そこから、何だかムキになっていた。
いつも逃げられた。視線は逸らされた。話しかけても、作り笑いではぐらかされて、仕事を一緒にやろうと思っても「私がやっておく」。
気に入らなかった。お願いされたらする。誰に対しても、大体の返事が「はい」で構成されているような人だと思った。
少しいたずら心が湧いて、昨日揚げ足をとって、"お願い"をした。やっぱり、抵抗された。
そりゃそうだ。あんなに急にあんなことされたら、拒絶するに決まってる。
(俺じゃなかったら……受け入れてたり、して)
こんなこと考えたってなんの意味もないのに。
菅原は己の拳を握り締めた。