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HQ短編‼︎

第4章 菅原孝支 思惑の指先 ②


「きりーつ、礼っ」

五限目の授業がはじまる。噛み殺しきれないあくびが漏れた。寝不足のせいでろくに授業内容なんて入ってきてない。
トントン、と指先で叩かれた机。澤村が、にこっと笑ってこっちにガムを投げる。反射でキャッチすると、「ナイス」と爽やかな笑み。
授業が始まっているので、いかんせん堂々とは話せない。囁き声で会話する。

「……道宮から?」
「当たり。"緋紗多分寝てないからあげといて!"だって」
「私も澤村もあの子には叶わないなぁ」
「はは、本当にそうだな。で、これは……激辛ガムだろうな。ドンマイ」
「私結構いける」
「え、マジで。辛党?」
「まあ、好きよ」
「ほほぉ、そうかそうか」

あまりにも澤村がにこにこしているので、何か奇妙な物を感じて首を傾げる。彼はまた笑って、黒板を指差した。「授業受けよう」という意味か。
まあいいや、と思い前を向く。あ、ガム食べなきゃ意味無いじゃん。……まあいいか。あと一限残ってるし。

もちろん、その授業で私は寝た。


「きりーつ、れぇい」

澤村は号令に合わせて重い腰を持ち上げる。号令もあくび混じりだ。
だらだらと話すだけの授業では、眠くなっても仕方ない。あくびくらい許してもらいたいものだ……と心で愚痴をたれていると、隣人の女子が立ち上がっていないのが見えた。
見ると、すっかり夢の世界である。
座って彼女を揺り動かす。確か次は移動教室だったはずだ。

「おぉ〜い、時縞ー。次移動だぞー」
「んん……」

見事に爆睡。さてどうしようか、と考えて込むまでもなく、右斜めに二つほど前の菅原に話しかける。

「スガ!ちょっといいか」
「ん?何、大地」
「コレ、よろしく」
指を指す先に、無防備な寝顔の緋紗。
「……はいぃ?」

杉下右京みたいな疑問の声は無視。澤村は上機嫌で教室を後にした。

「大地の奴……確信犯だな」

すっかり眠ってしまっている緋紗を見て、「どうしろっていうんだよ……」と呟きながらも、菅原はにやけの止まらないだらしない顔を覆った。
大地の席になりたい。そうしたら水曜日の五限目もちょっとは楽しくなるのに。
「 乙女かよ、俺」
もう少し。そう言い訳して、その寝顔を盗み見る。キスよりも悪いことをしているような気分になったのは、心に秘めた。
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