第4章 菅原孝支 思惑の指先 ②
----『とにかく、緋紗は菅原のことを買い被り過ぎてたんじゃないかな?誰だって完璧なわけじゃないし』
私が菅原に感じていた、まさしく劣等感というやつを、暗に言い当てて結は帰っていった。確かに、菅原は私から見て完璧な優しくて模範的ないい人。笑顔が自然で、努力しなくてもみんなに好かれて、----
「……あ。」
もしかして、私はとんでもなく失礼なことを考えていたのではないだろうか。
『あれがただ優しいだけの人間だったら、今頃男バレであんなに信頼されてないわよぉ』
信頼されるということに関して、それ自体に努力なんて不可だ。けれど、菅原はこの三年間部活をやってきた。それ自体が信頼に繋がっているのか。
努力をするから報われるなんて綺麗事だけど、努力をしないと報われる可能性はない。彼はその人間性がにじみ出ているから、周りの人間に好かれるのか。
優しいだけのyes-manじゃなくても。
私みたいに、ご機嫌を取らないとやっていけないと思うやつと、菅原は根本的に違うんだ。
心の中の真っ黒い靄が、すうっと晴れていったような、晴れ晴れとした気分になった。
もともと、同じ土俵の上なんかじゃなかった。それだけのことだった。
でもやっぱりキスしたのは許せない。クラスで会うのは気まずいが、一つ明らかになったことがあればそれで今日は乗り切れる。
まずは 取り敢えず澤村をシメることからスタートだ。
(澤村〜)
(お、おはよ、時縞)
(道宮になんか余計なこと吹き込んだんだ〜。時縞さん、あんなこと噂で広められたら困るなぁ)
(……)
(誰から聞いたのかなぁ〜)
(本人……です……)
(スガ……頑張れ……)
隣で指を鳴らし始めるクラスメートを尻目に、澤村はため息をついた。