第3章 月島蛍 雨天決行
雨の日は、あの日のことばかり思い出す。ずっと昔のことだ。
暗い体育館倉庫と、積まれたマットと、そこかしこに置かれているボールの入った籠、鳴り止まない雷。立てかけられた何かのせいで開かない扉。
空が光るたびに、一人で肩を震わせた。夏なのに酷く冷えて、自分で自分を抱きしめた。待っていても誰もこない。助けてという声も、最初に叫び過ぎて枯れてしまった。
心配した親が夜に学校へ連絡し、警察沙汰にまでなって、私が救助されたのは夜が深まった頃だった。
あの日以来、雷が怖い。暗闇と、狭い密室が怖い。
前触れなく強まり始めた雨足に、何か嫌な予感を覚える。ねえ月島、と話しかけると彼は面倒臭そうに何ですか、と答えた。
「このまま、雨酷くなるかな」
「……時縞サン、顔色悪いんですけど」
「凍えてるからかな、はは」
「うちで休んで行きますか」
「あーうんそう……って、どっ、え?」
「わかりました」
自分で話しかけておいて怠くなり、気づいたら月島の家に行くことになっていた。そんなに私の具合が悪そうなのだろうか。
「……ありがとう」
「何お礼言ってるんですか」
「えっ、だって気ぃ遣ってくれたんでしょう。たかが元中の生徒会の先輩ってだけで、何かごめんね」
「……普通そこはそのままありがとうデショ」
「ありがとう」
「ん」
傘の中で密着する指が触れ合う。底冷えした体に、その指先があたたかい。
「時縞サン、冷た………早く温まらないと、本格的にやばいんじゃないの」
「……そう?」
なんかお風呂も借りる流れになってきてるね、とふざけて言おうとした時、あの嫌な光がよぎった。
雷だ。
空気を裂くような音に、知らず体が震えはじめる。同時に、寒さも限界を迎えかけていた。冷えと雷に、あの日の記憶が重なる。……嫌だ、あの日とは違うのに。
「チッ、急がないと……時縞サン?」
「あ、大丈夫。何でもない。……寒いだけだから。ほら行こ」
「……」
月島は無言で私の肩に自分の上着を掛けて、手を引いた。