第3章 月島蛍 雨天決行
日常の雑音に混じりきれないほどの轟音で、豪雨が降り続いている。今日の朝、
『今日は雨みたいよ?あ、ちょっと折り畳み傘持って行きなさい!緋紗ったら‼︎』
『今日荷物重いの。 いらない!』
とばかりに、母の持ってけ攻撃を突破したはいいけど。
「今日ばっかりは、持って来ればよかった……」
完全にやっちまった。いつも母の見ている天気予報は当たらない。今日もどうせ当たらないだろうし、無駄な荷物は持ちたくないから正しい選択だと思ったのに。
ピロン、と携帯が鳴る。案の定母からだ。怒りマーク付きで、「だから持ってけって言ったべ、なじょすっけな(どうするのよ)」とか「はがくせぇ(馬鹿らしい)」とか訛りながらのお叱りだ。
「どうするのって……どうしよう」
このまま待ちぼうけして雨が上がればいいけど、この調子だと7時はまわるとの予報だ。その予報があっていればだけど。
仕方ない。幸い明日は学校が休みだ。気合い一発。徒歩約25分の距離を駆け抜けてやろうではないか。
腕まくりをして、雨の降りしきる中へ飛び込む。
うわ、一瞬で全身濡れた!
もうこうなったらヤケだ、と腹を決めて走り出そうとすると肩を掴まれた。
ん?と振り返ると、傘を差し出される。
「何やってんですか、あんた」
「……月島」
なんと中学時代の一個下の後輩だった。背が高いので見上げる首が痛い。確か、最後に話したのは卒業式の時か。
「あーあ、もうびしょ濡れじゃないですか、時縞サン」
「傘を持ってくるの忘れちゃって……」
「馬鹿だ」
「もうなんとでも言って」
「傘の一つや二つ貸してくれる友達もいないんですね」
「それ刺さるよ月島クン」
先輩相手に遠慮なく罵ってくる月島は、時々敬語が取れる。頭はいいからその辺の区切りは良さそうだけれど、私のことを先輩として見ていないのか、心を開いてくれているのか。
そうやって馬鹿にしつつも、私を気遣って傘の内側に引き寄せてくれる所とかに女子は落ちるのだろう。
勝手に冷えた体が震えだす。まずいな、寒い。
「……時縞サン。先輩の家ってここからどのくらいですか」
「……徒歩約二十五分」
「あんたがどんだけ阿呆かわかりました」
「馬鹿の次は阿呆ですか」
仕方ないから送ってってやります。そう言った月島の表情は見えない。