第2章 日向翔陽 グッバイ•アイザック
「よっ、緋紗」
「はよ」
「緋紗ちゃんおはよー」
「おは」
廊下で声をかけられるたびどう反応したらいいのかよくわからない。学校祭で演奏するまで、私達はただの有志バンドだった。
それが、最終日に時間の埋め合わせで一曲歌っただけで、こんなに自分達が有名になるなんて、思うわけもなかった。
こうやって名前も顔も知れる前から、同じクラスの西谷は、私とよく話す数少ない男子だった。きっかけは特にない。単純に、あいつが誰に対しても明るく接する人だった、それだけだ。気づいたら、そこから少しずつ友達が増えていった。つくづく凄い奴だ。
最近では、たまに花香やバレー部の田中とかと一緒に弁当を食べる仲だ。
そういえばさー、と西谷。
「お前、普段は大人しくて下向いて喋るのに、ギターがあればあんなに大きい声出るんだな」
「西谷のくせに、何それ」
ステージ上まで来て、尻込みする奴がどこにいるの?と苦笑すると、
「だよな。俺もそう思う‼︎ 流石緋紗っ‼︎」
と肩をゆすられ、ついには花香も交えて大騒ぎしだした。主将さんがうるさァァァァいと怒鳴るのもわかる。大変だなあ男子バレー部は……。
バレーといえば、と、初めて日向を見た日を思い出す。
西谷から、ある日「緋紗、お前さ、他校との練習試合観に来ないか?」という誘いがあった。
「え、いいの?」
「あたりめェだ‼︎ 女子の観戦者全然いなくてつまんねぇんだよ、来いよ」
「理由にしては誘う人間違ってると思うよ、西谷」
「え、なんで? お前女じゃねえの?」
「極端すぎない?」
流石馬鹿。呆れてそう言うと、急に西谷はわたわたし始めた。
「悪りぃ悪りぃ、ごめんって。……実はさ、今年すげえ一年が入ってきたんだ。もちろん----俺のかっこいいところも、見せたいけどよ、そいつら見せてやりたいんだよ」
「……へぇ。わかった。バンド仲間と行くよ。」
言ってから下を向いた西谷を、らしくないな、と思ったっけ。