第1章 月が綺麗ですね(黒子のバスケ:火神夢)
だからこそ、アレックスは弟子達が居なくなってからもユリアを何かと気にかけている。そして徐々に元気を失う少女を目にして、手紙程度の連絡で満足する弟子達に呆れと怒りを覚えた。
そこで考えた打開策を実行に移す。
二人の弟子がWCで一戦を交えるのは知っている。そして氷室と火神の実力が同等でない事も、アレックスは知っていた。時間的にギリギリではあるが、師匠として火神のサポートを提供しようと思ったのだ。そしてついでと言ってはなんだが、ユリアも共に連れて行き、三人の関係を白黒ハッキリさせる機会を作ろうと考えていた。
思い立ったが吉日。生粋なアメリカ人である彼女は日本のことわざを実行し、ユリアの両親の元へと足を運ぶ。そこでユリアを共に来日させられないか、相談を持ちかけた。
実際は相談と言うより、説得に近い対談で終わる。娘の様子が徐々に落ち込んでいるのには気づいていたが、やはり愛娘なだけあって、親としてはおいそれと渡日を許す訳にはいかない。話も突然だったし、できれば娘にはアメリカと言う慣れた環境で新たな友達を作って欲しかった。けれど、そこで情に厚いアレックスからの反撃を食らう。
娘を想うならば、どうかユリアの悩みを解決させるチャンスを与えて欲しい。そう彼らに畳み掛けた。
規模の大きい話になるが、やはり人生は一度しかない。そして大人になるにおいて一番大事な思春期は今しかないのだ。ユリアが元気に戻る為にも、立派な人間へ成長する為にも、この曖昧な三人の関係に決着をつけなければならない。内気なユリアだからこそ、回りくどい人付き合いは止め、相手と真正面から見つめ合う経験をした方が良いと力説する。そして行動力のあるアレックスならば、少女の背中を後押し出来る事もアピールした。
社会的に見れば、こんな個人的な理由で故郷を離れるのは馬鹿げているだろう。いくら二重国籍を持ち、日本人の両親に育てられたユリアとは言え、本場の日本で生きていくには知識も常識もない。別に絶縁状態でもないのに、友情の為にアメリカを離れるのは些か大げさのような気がした。そんなライオンの檻に投げ込むような行為、許可するはずがない。