• テキストサイズ

月が綺麗ですね(黒子のバスケ:火神夢)

第1章 月が綺麗ですね(黒子のバスケ:火神夢)


今振り返れば、それは無駄な努力だった事に気づく。結局、最初に姿を消したのは自分の気持ちに最も素直だった火神だった。ユリアには日本の住所を表記した手紙だけ残し、ロサンゼルスの大都会を去ってしまう。言いようのない悲しさと寂しさに、ユリアは打ち拉がれた。

だが彼女を更に追い込むかのように、氷室との関係にも変化は訪れる。優しい態度こそ変わらないが、何か取り憑かれたように氷室はバスケへ没頭していった。まるで遠い未来でも見据えるように、彼は己を鍛え上げる事に全てを費やす。

事実上、ユリアは一気に二人の友人を失ってしまった。火神はレトロながらも手紙をまめに書いてくれたし、氷室も時々だが一緒に過ごしてくれる。だが三人で居た頃とは明らかに違っていた。仕方ないと分かっていても、やるせなさは消えなかった。

そして遂に、氷室でさえもユリアを置いていく。日本のWC参加の為、彼も地球の反対側へと旅立ってしまったのだ。

火神と同様、氷室も真面目な性格でメールでのやり取りを定期的にしてくれた。がしかし、本格的に一人ぼっちになってしまったユリアの学生生活は苦しいものだった。勉強は最低限こなすが、どうしても孤独感を拭えない。

早く己の感情を割り切って、新たな友達を作れば解決するのだが、人付き合いに消極的なユリアにとって、それはハードルが高すぎる要求だった。ある意味、氷室と火神に依存しているダメな女なのかもしれない。そう自己嫌悪に苛まれつつ、いつのまにか寂しさで毎晩のように枕を濡らすほど、精神的に辛い日々が続いた。

それに気づいたのは奇しくも少年達の師であるアレックスである。

よく二人の弟子達とツルんでいる可愛い少女。アレックスにとってユリアはそんな認識で、もちろんキス魔としての本領を発揮した。キス文化のあるアメリカ育ちとは言え、恥ずかしがり屋な少女は口付けを頬に落しただけで愛らしい反応が返した。それを見るのが楽しくてしょうがないと、アレックスは今でもキスのチャンスを窺い続けている。本当は口に直接キスをしたいのだが、あいにく愛弟子達から恐ろしい剣幕で釘を刺されている。本来ならば師匠に頭の上がらない少年達だが、この少女に関してだけは、一人前の男を見せる。その様子を見れば、二人にとってユリアがどれだけ大切なのかが伺えた。
/ 7ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp