第1章 月が綺麗ですね(黒子のバスケ:火神夢)
理由は聞かされていない。いや、ユリア本人が聞きたくなかった、と言った方が正しいのだろう。
いつもなら二人のストバスを応援する為に試合を見にいくのだが、たまたま見に行けなかった試合の翌日から、ユリアは二人の雰囲気に違和感を感じていた。一見、いつも通り仲が良いようにも見えたのだが、どこか張り詰めた空気を纏う二人がそこには居た。
よく観察すれば、氷室の態度は火神に対して無感情である事が伺える。以前までは火神とバスケをしたい熱い気持ちが見え隠れしたのに、今はその情熱が一切感じ取れない。言動は今までと変わらないだけに、ユリアは氷室の静かな変貌ぶりが怖かった。
逆に火神はとても分かりやすい。最初こそ普通に氷室とユリアに接していたが、だんだん居心地の悪そうな表情を浮き彫りにさせる。彼が無理をしているのは明らかだった。
前日の試合が原因で仲違いしたのは、さすがにユリアでも気づく。バスケを通して強く繋がっていた二人を引き裂くには、やはりバスケしかない。それでも、それを問いただす勇気はユリアには無かった。こうして二人がユリアの目の前にいるのは、彼女に気を使っての事だと察していたからだ。
少年達はユリアの知らぬ間に……そして勝手に喧嘩をした事に気が引けているのかもしれない。自分たちの都合で縁は切ったものの、何も知らないユリアを傷つけたくなくて、仲のいいフリだけでも続けようとしているのだろう。
もし、そんな二人の異変に気づいて理由を問いただしてしまえば、二人は喧嘩の原因を言うだけ言ってユリアを置いていくような気がしていた。いや……これも語弊だろう。正確に言い直すのなら、ユリアが二人を置いていく、になる。どちらの少年も大切だからこそ、どちらの味方にもなれない。事情を知ってそんな中途半端な存在にはなりたくなかったし、なったとしても耐えられない。きっと逃げ出してしまう。
それは絶対に現実にしたくない結末だった。だから例え氷室と火神がギクシャクしようが、ユリアは藁にもすがる想いで二人と共に「いつも通り」を演じ続けた。無理やりにでも三人で過ごせば、二人の関係を修復する突破口が見つかると思ったのだ。