第6章 鼠の反乱
驚きで声が出ない。
心臓がバクバクする。
多分、抜き取られたネギを掴みたくて私の袖口を掴んだのだろう。
そう考えると早鐘のように打ち続ける心臓の音が、収まって来る。
うー、心臓が止まるかと思った。
私はそっと奴良リクオ君の手を解くと、そのまま布団の中に手を直す。
そして、ホッと一息ついた。
と、庭に面した障子の向こうで「あら、みんな。リクオの部屋の前でどうしたのかしら?」という女性の声が聞こえて来たのと同時に、「若菜様、しーっ、しーっ!」と複数の声が上がった。
ん? 何?
私は奴良リクオ君の布団の傍から立ち上がると、そのまま障子を開けた。
と、障子の向こうには様々な妖怪達が鈴なりとなっていた。
一つ目小僧のような妖怪。納豆の形の顔をした妖怪。頭に2つの角を生やした小柄な鬼達。
そしてその後ろには首をプカプカと浮かせた美男子の首無さんや、頭に傘を被り僧侶の着物を着ているのに黒髪を伸ばした男性。
ガイコツを首にかけた大男もいた。
私は目を丸くする。
なんで妖怪がこんなに集まってんの!?
「あ、……、あの?」
私を見て目を丸くし固まっている妖怪の集団に、怖々と声を掛けると色々な言葉が返って来た。
「ハハハ、覗いてなんていやせんよ?」
「拙僧は通りがかっただけだ…」
「ハハハ、ボクは水の取り換えに」
「オ、オイラは洗濯物を~…」
「ガハハー、ワシは毛倡妓から若に春が来たと教えて貰ったから、覗きになっ!」
「バ、バカ! 青!!」
「しーっ、しーっ」
うーむ。話しを総合すると皆して覗いてたんだ。
て、言うか、なんで入って来なかったんだろ?
別に何も悪い事してないのに……
「あの、入って来て貰って良かったんですけど…」
その言葉に皆揃って首を横に振った。
「良い雰囲気のとこ邪魔しちゃ悪いーし!」
「そーだそーだ!」
「やはりリクオ様の春は、我々がきちんと見守ってやらないとね」
最後に首無さんが爽やかな笑顔で、ワケの判らない事を付け加える。
皆何言ってんだろ? 妖怪達の思考回路が良く判らない。
顎に手を当て、首を傾げていると奴良リクオ君のお母さんがにこやかな笑顔で近寄って来た。