第6章 鼠の反乱
じっと見詰めつつ心の中で謝り続けていると、黒髪の女性は頬に手を当てながら、私と奴良リクオ君を交互に見、「もしかして」と呟き口に手を当てた。
そして、突然立ち上がった。
どうしたんだろう?と女性の動きを目で追っていると、黒髪の女性は私に小さく笑いながら、ウィンクを飛ばしてきた。
「私、ちょっと台所に用事があるの思い出したわ。しばらくリクオ様を見てやってくれるかしら?」
「あ、はあ」
「ホホホ、じゃあよろしくー」
頷く私を残し、黒髪の女性は「リクオ様に春がやって来たわー」と呟きつつ、襖の奥に消えて行った。
奴良リクオ君に春? 何の事だろ??
確かに今は4月下旬。春と言えば春だけど、それって日本全土に住んでる人達にも言えるんじゃないかな?
……判らない。
いくら考えても答えは出ないので、私は考える事を放棄すると、熱で苦しそうな奴良リクオ君に目をやった。
すごく苦しそう……
どうしよう。私に何が出来る?
私は目についた額の上の濡れタオルに、手を伸ばしてみた。
高い熱の所為なのか、カラカラに乾いている。
「っ、タオル乾いてる……! お姉さん気がつかなかったのかな?」
大変! 大変!
キョロッと周りを見渡すとリクオ君の頭の上の方に求める手桶があった。
手桶の中には、バッチリ水が入っている。
私は奴良リクオ君の額の上からタオルを取ると、手桶に入った水にそれを浸し絞った。
そして、そっと濡れタオルを額の上に戻すと、左手に何か長いものを握っていることに気がついた。
「ネギ?」
なんでネギを握ってるんだろ?
「もしかして奴良君、今ネギが食べたいとか…?」
そんなわけない、と思いつつも奴良リクオ君の顔を見る。
相変わらず目をきつく閉じ、うーんうーんと唸っている。
答えは返って来なさそうだ。
取り敢えず、手を布団の外に出していると冷えるから布団の中に直そうと思い、左手を開かせてネギを取った。
と、ネギをスルリと取ったとたん、袖口をぎゅっと掴まれた。
「うひゃっ!?」
な、な、なー!?