第6章 鼠の反乱
緊張に負けないように、頭をブンブンと振った私は、奴良リクオ君の部屋の中に足を踏み入れた。
と、布団の傍に座って奴良リクオ君を介護していた、波打った黒髪を後ろで纏め上げた美女が顔を上げた。
「あら、アナタ、若が連れ帰った人間じゃない。寝てなくていーのかしら?」
私はその言葉にビクビクしながらも、言葉を紡ぎ出した。
「あの、奴良君、大丈夫かな、って……」
「大丈夫よ。ただ熱を出しただけみたいね。ホラ、いつまでも突っ立ってないでこっちにいらっしゃいな」
おいでおいで、と手招きされ、私は奴良リクオ君が横になっている布団の傍に座らせて貰った。
「あの、風邪、ですか?」
「まだ何とも言えないのよねー。鴆様がまだ来てないから」
私はそうなんだ、とコクリと頷いた。
朝方私を診てくれた鴆さんは、何か用事があるのか知らないが、この屋敷にはいないみたいだ。
でも、目の前の女性は誰だろう?
この屋敷に居るって事は、妖怪である確立が高いんだけど……
と、うっすら目を開けたリクオ君がこちらを見上げて来た。
「有永さん。遅れて、ごめん……」
「ん?」
「ボクが遅れた所為で、怪我させちゃって……」
え?え?
これってまさか、妖怪に変化した時の記憶が残ってる!?
慌てて私は首を振った。
そして、そんな事気にしないで、と返事を返そうとしたが、ハッとある事に気付いた。
記憶があるって事は、自分が妖怪に変身する事に気付いてるって事で。
でも変身後の姿は、人間の姿と全然違う姿。妖怪の姿で助けてくれた奴良リクオ君。
その姿を奴良リクオと何故知ってる?とさっきの二の舞になる!
ここは、シラをきらなければいけない。
私は、額に冷や汗をかきつつ、笑顔で言葉を返した。
「いやいや、なんのこと?」
そんな私の答えに、「そっか……」と言って荒い息の中、奴良リクオ君は目を閉じた。
よっし! 乗りきった!
私は心の中でガッツポーズを取る。
でも熱が相当高いみたいだ。
頬が赤く、汗で数本の横髪が頬に張り付いている。こんなに熱を出すなんて、普通では考えられない。
やっぱり、風邪をこじらせた?
ごめん。私とゆらちゃんを助ける為に無理させて……
本当にごめんなさい。