第6章 鼠の反乱
廊下に面した障子を見ると、朝の光の中、様々な妖怪達がバタバタと行き交っていた。
どうして熱なんて出してるんだろ?
私は、包帯が巻かれた肩を庇いながら上半身を起こした。すると、枕元に居たお母さんからそれを両腕で制止された。
「舞香。まだ寝ておらぬと駄目じゃ」
「ん」
でも、すごく気になる。
熱出すと苦しいし。
もしかして、昨日の夜はきつい身体を無理して助けに来てくれたかもしれない。
「お母さん。ちょっと様子見に行っていい?」
と、額をペチリと叩かれた。
「駄目と言っておろう。傷が深いのじゃ。ゆっくり寝ておれ」
「でも、さ。もしかして風邪ひいて身体きついのに、助けに来てくれたのかもしれないし……」
その言葉にお母さんはまじまじと私を見た。
「な、なに?」
何か怒られるような事言った!?
内心冷や汗をかきつつお母さんを見返していると、「舞香。何故知っておる?」と疑問をぶつけて来た。
「へ? 何を?」
「ぬらりひょんのわっぱの事じゃ」
ぬらりひょんのわっぱって言うと、奴良リクオ君の事だ。
「ぬらりひょんのわっぱは、妖怪だと言う事を周りに隠しておる、とジジイに聞いたぞよ?」
「え? あ、その」
拙い、拙い、拙い!
奴良リクオ君イコール夜リクオ君を知ってる事、なんて言い訳すればいい?
漫画を読んだから知っているなんて、言えない!
どうしよう!
テンパッた私は、思わず口から嘘を滑り出させていた。
「奴良君、本人! 本人から聞いた!」
「ほう? 隠している本人からのう……。ふむ。短い間に随分信頼を得たものじゃ」
片眉を器用に上げるお母さんに、思いっきり首をうんうんと縦に頷く。
「だ、だ、だって、お父さんとお母さんの娘だから!」
「ふふふ。そうか。そうか……。舞香はあやつに似ておる所もあるからのう。ほんに、可愛い娘じゃ」
「流石じゃのう」とお母さんは笑顔で私の頭をそっと撫ぜる。
私は心の中で、汗を拭った。
ふう、疑い回避成功!
お母さんが奴良リクオ君と話す機会なんてないし、嘘はバレないだろう。
「で、お母さん。奴良君の容態見に行きたいんだけど、いいかな?」
「うむ。信頼しあう者が熱があるならば、舞香も心配じゃろう。見舞いに行って来ると良い」
「ありがとう! お母さん!」