第6章 鼠の反乱
すると、お母さんが唸り声を上げる。
「ぬらりひょんのわっぱが。風情が舞香に近付くでない」
と、夜リクオ君の後ろに控えていた白い着物を着た少女が抗議の声を上げた。
「ちょっと! 若がせっかく介抱してやろうとしてやってんのに、その言い方は何よ!」
と、首に髑髏を連ねたものを掛けた大男が白い着物を着た少女を止めた。
「雪女。ありゃ雷獣だ。お前はしらねぇかもしれないが、総大将と互角にやりあった事もある大妖怪だぜ」
「え? えぇえ!? あの獣妖怪が!? うそぉ!」
雪女はくるくる目を大きく見開き、驚きの表情を見せる。
夜リクオ君はその中、じっと紅い眼でお母さんを見ていた。
「この傷は舐めて治せるようなもんじゃねぇ……」
「おぬしには関係ないじゃろ」
その言葉を無視して、夜リクオ君は私の両肩に手を伸ばすと、そのまま抱え起こした。
「っ痛!」
今更だが、動かされると激痛が走った。
逃げる最中、痛みが無かったのは、痛みどころでは無かったからかもしれない。
「舞香! ぬらりひょんのわっぱ! 舞香を離さぬか!」
夜リクオ君はお母さんの言葉を無視し、そのまま私を横抱きにした。
「雷獣。ついてきな……」
そう言いつつ、朝靄の中どこかへと歩き出す。
「舞香!」
お母さんは私の名前を呼びつつ、慌ててついて来た。
そんな中、ゆらちゃんが大声で夜リクオ君を呼びとめた。
「待ちい! 有永さんをどうするつもりや!」
夜リクオ君は一端足を止めチラリとゆらちゃんを見るが、何も言わず、また歩き出した。
「なんで、なんで雷獣と妖怪の主が手を組んでるんや! 今度は絶対倒してやる!」
悔しそうな声が後ろで上がる。
そう言えば、窮鼠が言っていた。ゆらちゃんは式神が無いと戦えないと。
私は、お母さんが祓われると慌てていたので、その言葉を忘れていた。
でも、ゆらちゃん、式神が無い今、どうやって攻撃しようとしていたのだろう?
もしかして、体当たり?
今となっては、確かめる術は無い。
濃い朝靄が身体全体に纏わりつく。
でも、夜リクオ君。私をどこへ連れて行くつもりなんだろう?
私は肩の痛みに耐えつつ、朝靄が立ち込める前方をそっと見た。