第4章 夜若との遭遇
肩から降ろされ、部屋の中をキョロキョロと見回していると、夜リクオ君はそのまま部屋の外へと出て行く。
え!? ちょっと、待って!
「あの!」
声を上げると夜リクオ君はこちらを振り返り、何故呼びとめられたのか判らないような表情をした。
「ここ、どこですか?」
「……オレん家」
え。
今、なんと?
目を瞬かせていると夜リクオ君は、「夜道の一人歩きは危険だぜ」と言い残し、そのまま部屋を出て行った。
広い部屋の中、私は一人呆然と佇む。
なんで、奴良リクオ君の家に連れて来られたの?
駅で下ろしてくれると思っていたのに。
なんで?なんで?
しかし、答えは見つからない。
私は溜息をひとつ零すと答えを出すのを諦めて、別の事を考える事にした。
もう一度、部屋の中を見渡す。
立派な調度品を置いているが、良く見るとどれも年月を経たものばかりだ。
改めて考えてみると、これってすごい事だよね?
大好きな『ぬらりひょんの孫』の主人公の家だよ!家!
で、でも、夜だからかな? ちょっと怖い……かな?
眉を顰めつつ、風でガタガタと微かに揺れる障子の音に恐怖を覚える。
ゆ、幽霊、出ないよね?
と、突然庭に面した障子がスッと20センチくらい開いた。
「わっ!」
私は思わず肩をビクッと揺らす。
そこに居たのは、山伏のような装束を着た黒い鳥だった。
手には小さな錫杖を持ち、頭には小さな頭襟を被っている。
目を丸くして見ていると、その黒い鳥は礼儀正しくペコリと頭を下げた。
「ワシは鴉天狗。先程は醜態を見せ失礼致した。リクオ様のお客人。ゆるりとしていかれよ」
鴉天狗!?
『ぬらりひょんの孫』の鴉天狗!
わ、わ、わ、漫画で知ってたけど、改めて見るとすごい可愛い!
まじまじと見ていると鴉天狗は、羽をパタパタ動かしながらこちらに向かって飛んで来た。
「お客人。空腹とかでは御座いませんか?」
うわーっ、小さくて可愛いすぎ!
その毛触りはどうなんだろう?
触ってみたい!
頭を人差し指で撫ぜ撫ぜしてみたい!
うずうずする欲望を押さえ付けながら、私は小さく首を横に振った。
友達と食べて来たからそんなにお腹は空いていない。
「そうですか。では、床を敷きましょう」
そう言い、部屋の隅にある障子を開けると、布団を重ねて入れている押し入れが現れた。