第12章 陰陽師には近寄るべからず
「…………おい、なに」
リクオ君が何か言葉を続けようとした時、突然左側にある窓がガラッと開いた。
ガラッ? ……あれ? 私って戸締りしてたよね?
て、言うか夜リクオ君も入り込んでたし、もしかして戸締りするの忘れた!?
ぽかんとしながら、開いた窓を見ると、そこから背に黒い翼を生やし、黒い着物の上から戦国時代の武将が着るような鎧を纏った黒髪の青年が姿を現した。
頭には修験者が付けるような黒い頭巾をかぶっている。
あの黒い翼! それに戦国時代の鎧を纏った姿! もしや、もしや、黒羽丸ー!
絵ではなく、現物を初めて見る姿に、はー、と感動していると、夜リクオ君からむにっと右頬をつままれた。
「ちょっ、何すんの!?」
夜リクオ君の腕を掴んで押しのけるとそれは簡単に外れた。
と、窓枠を乗り越えて部屋に入って来た黒羽丸は夜リクオ君と私を見比べ、真面目そうな顔の眉間に皺を寄せる。
「若。何をやってるのですか。婦女子の部屋に……」
「おう、黒羽丸。……休憩だ。休憩」
黒羽丸は大きな溜息を吐き出す。
そして、私達の目の前で跪くと私の後ろに居る夜リクオ君を見上げた。
「若。親父がリクオ様に火急知らせたい事があるとの事。急いでお戻り下さい」
「火急……?」
夜リクオ君はしばらく考え込み、何かに思い当たったのか、「ああ……」と応えた。
そして、私はやっとリクオ君の腕の中から開放された。
ほっと安堵の息を付く私に、夜リクオ君は片手を上げると「またな」と言い、黒羽丸と共に窓の外の闇へと溶け込むように去って行った。
はぁ、どきどきの嵐が去ったー……
あわあわしていた思考が元に戻って行くのを感じる。
と、はたと自分の姿を思い出した。
寝ていたので、アソート柄のサテンパジャマだ。
羞恥に顔へと血が集まる。
うわわわー! 夜リクオ君と黒羽丸にパジャマ姿、見られたぁーー!
は、は、恥ずかしすぎるー!!
私は柄にも無く、顔を両手で隠すとベットに倒れ伏した。
くう、これも夜押しかけて来た、夜リクオ君が悪いー!
今度、絶対、逆襲してやるー!
顔を伏せた枕を横からぺしぺし叩きながら、私は固く決意した。
だが、黒羽丸と夜リクオ君が土足で入って来ていた所為で、明日、土で汚れた絨毯をお母さんに咎められる事になるとは、予想もしてなかった私だった。