第12章 陰陽師には近寄るべからず
お母さんの言葉を慌てて止めに入ると、声を掛けられた夜リクオ君は慌てるお母さんを宥めるように静かな声を発した。
「落ち着けよ。舞香のお袋さん……。今の時間、病院は開いてねぇ。鴆を呼んでやる」
「”ぜん”? 何者じゃ?」
夜リクオ君は、訝しげな目を向けるお母さんに応えず、庭に面した障子に向かって一言声を上げた。
「鴉」
「はっ!」
一秒も経たずに頭巾を被った小さい鴉が現れた。どこかで待機していたのかもしれない。
って、鴉天狗ー! あの小さなボディが可愛い! 触ったらすごく気持ち良さそうだ。
じーっと鴉天狗を見ている私を尻目に、夜リクオ君は短く命令を下した。
「鴆を呼んでくれ。それから、飯もな」
ん? ご飯? なんで?
不思議に思い夜リクオ君を見ると、私の視線に気付いたのか顔を少しこちらに向け、ニッと笑った。
「帰りに襲われたんだ……。飯食ってねぇだろ?」
夜リクオ君の気遣いに思わず目を瞠ってしまった。
え? え? え?
なんだか、今日のリクオ君、優しい!
「是非、おかずは肉でお願い!」
思わず欲望を口にしてしまった私に、夜リクオ君はクッと小さく笑った。
「そんだけ元気なら、鴆はいら「若ーーっ!」」
ドタドタドタと廊下を駆ける足音が聞こえて来たかと思ったら、夜リクオ君の名を呼びながら、障子の向こうから氷麗ちゃんが姿を現した。
台所仕事をしていたのか、肩から脇に紐をたすき掛けをして着物の裾を上げていた。
急いで来たのか、肩で小さく息をしている。
そして、何故か手に氷で出来た薙刀を持っていた。
え? 何故、薙刀?
唖然として見ていると、氷麗ちゃんはお母さんに向かって薙刀を構えた。
「ご無事ですか!? 若! この氷麗が来たからには、雷獣に若へは指一本触れさせません!」
はい?