第11章 邪魅事件発生
私の言葉にお母さんの動きがピタッ止まった。
どしたの!? お母さん!?
何が起こったのか良く判らず、そっとお母さんの顔を覗き込んだら、すごく無表情になっていた。しかも、目が据わっている。
「お、母さん?」
「抱き着いたじゃと……! 妾の大事な舞香に抱き着いたじゃと!! 許せぬ! あのわっぱ、仕置きじゃ!」
「ちょ、だめ、だめ! リクオ君は私をからかっただけなんだから! あ、カニ! 大きいカニお土産に貰ったんだ! ほら!」
私は慌てて傍に置いていた四角形発砲スチロールの箱を持ち上げた。
浮世絵町に帰り着き、清継君が「ボクの家でカニパーティだ!」と言い出したのだが、早く戻らないとお母さんが心配するかな?と思い、それを断り、代わりに分けて貰ったカニを持って帰ったのだ。
「ね、ね! お母さん、カニ食べたい、カニ!」
「あのわっぱの仕置きが先じゃ!」
怒り声を上げ靴を取り出すお母さん。このままだと奴良家に突撃し、妖怪に変化して、その鋭い牙でリクオ君に噛みつきそうだ。
外はまだ明るいから、きっと人の姿だ。人では、妖怪変化したお母さんには敵わない!
必死に宥めようと私は言葉を続けた。
「カニは冷蔵庫に入らないくらい大きいから、すぐ調理して食べないと腐るよ! それに食材無駄にしたら、お父さんに怒られるかもしれないよ!?」
お父さんという言葉を出すと靴を履こうとしていたお母さんの肩がピタッと止まった。
「……、お、怒られる、かえ?」
打って変わって弱弱しい声を出し、私の方を見るお母さん。
私は大きく頷く。
「ぬう……、仕方がないのう。仕置きは後じゃ……。舞香、調理の準備を手伝ってくれるかえ?」
「うん!」
”後”と言う言葉が気になるけど、止められて良かった!
私は自室へ荷物を置くと、エプロンをつけ、ダイニングキッチンへと向かった。