第9章 覚醒
「お前さんの倅(せがれ)が持っとる獲物。ありゃ確かに魔王の小槌じゃのう」
「おぉ……、馬鹿息子めが……」
スーツ姿のおじさんは顔に手を当てる。そして、何か決意したように顔を上げると、ぐっと拳を握り、2人が戦っている方向へと足を踏み出した。
その肩をぬらりひょんさんはガッと掴む。それにスーツ姿のおじさんは振り返った。
「待つんじゃ」
「止めてくれるな。奴良組の。ワシが止めぬとあやつの野望はどこまでも続いてしまう……」
「ワシの孫に任せい。あやつならきっとやってくれるじゃろ」
「し、しかし……」
「リクオはこのぬらりひょん様の孫じゃぞ? ワシの孫を信じろ」
私はその言葉に、どれだけぬらりひょんさんが奴良リクオ君へ期待しているのかが判った。
このくらいの修羅場はくぐりぬけられると、信じているのだ。
だから、私も不安な気持ちを切り捨て、夜リクオ君の勝利を信じ、剣戟を繰り広げる2人の姿に視線を移した。
そして、戦いは原作の通りとなった。
東の空が白む頃、夜リクオ君の身体から白い煙が立ち上る。
昼と夜の姿が混ざり合った。
それを脆弱と蔑む玉章に、夜リクオ君は奴良組の皆が見た事の無い技を発動させ引導を渡した。
倒れ伏した玉章の身体から、異様な”力”が抜けて行く。
それを見た奴良組の妖怪達は、歓喜の声を上げ、ふらつく奴良リクオ君の元へ駆け寄った。
そう。いつの間にか奴良リクオ君の姿は人間のものとなっていた。
朝が来たので、妖怪の姿が保てなくなったのだろう。
と、後ろでぬらりひょんさんの得意げな声が聞こえて来た。
「四国の。見たじゃろ。あれがワシの孫じゃ。まだ未熟じゃがの。カッカッカッ」
うん。強い。強いよ。奴良リクオ君。
でも、勝てて、本当に良かった……
安堵と歓喜が交ったような気持ちが沸き上がる。
と、倒れ伏していた玉章が、突然叫び声を上げた。
「夜雀! 裏切るのか!? 返せ! 魔王の小槌を返せー!!」
その声と共に、顔に包帯を巻いた少女が黒い翼をはためかせながら、上空へと飛び立って行く。
そう言えば、夜雀……。雷を受けて倒れたのに、いつの間にか復活してた?
多分、私の”力”が弱かった所為で復活したのかもしれない。
白む空の彼方へと姿を小さくしていく夜雀に、また原作を思い出した。