第9章 覚醒
それは凄まじい戦いだった。
夜リクオ君は先程よりも力が増した玉章に押されて行く。
唇の端から血が流れ出る。そして、黒い着物から出た腕からもポタポタと血が滴り落ちる。
きっと着物に覆われた身体にも痣が出来てると思う。
やめて! と叫びたかった。
でも、きっと夜リクオ君は戦いをやめない。
玉章も攻撃をやめないだろう。
目的を達成するまで。
私は下唇をきつく噛んだ。
この戦いの結末は、原作通りなら、必ず夜リクオ君が勝つ。
でも、ここは二次元じゃない。三次元だ。
紙に描かれた世界じゃない。現実。
本当に勝利するのか判らない。
もしかしたら、夜リクオ君がこのまま深い傷を負ってしまうかもしれない。
私の”力”はダメだった。
どうやったら、玉章を倒せる?
私は打開策を見つけるべく、周りをきょろきょろ見回した。
誰か、確実に玉章を倒せる人……、いや妖怪でもいい!!
しかし、周りには2人の戦いを固唾を飲んで見守っている奴良組の妖怪と、唖然と傍観している人間しか居なかった。
誰か、奴良リクオ君を助けて欲しい! 誰か強い人は居ないの!?
と、後ろからポンッと肩を叩かれた。
ビクッと心臓が飛び跳ねる。目を見開いたまま、後ろを振り向くと、そこには好々爺姿のぬらりひょんさんとステッキを手にしたスーツ姿のおじさんが立っていた。
スーツ姿のおじさんは恰幅が良いが、表情が柔和で紳士的な雰囲気を持っていた。
ぬらりひょんさんは、不敵な笑みを口元に乗せながら、口を開く。
「舞香さんじゃったか? その姿になると母親によう似とるのう」
「え?」
「どうじゃ、今度、茶でもしばきに行かんか? ワシの行きつけのかふぇはいい所じゃぞ」
パチンとウィンクしてくるぬらりひょんさん。
突然の言葉に「は?」と頭を真っ白にしていると、後ろのスーツ姿のおじさんがぬらりひょんさんの袖を引っ張った。
「今はなんぱなんぞしとる暇はないぞ。あやつを止めねば……」
「ふむ……?」
ぬらりひょんさんは、2人の戦いの場面の方に目をやると、手を顎に当て目を細めた。