第9章 覚醒
ゆらちゃんが飛ばした式神は、瞬く間に巨大な体躯を持つ犬のような生き物へと変化した。
その大きさはお母さんの3倍近くはある。
その犬のような式神は大きく鋭い牙を剥き出しにして、お母さんに迫った。
お母さんはその攻撃に気付くと立ち止まり、身体に電気のようなものを纏い迎え撃つ。
「待って!」
駆け寄ろうとすると、その犬のような式神は、その鋭い爪をお母さんの身体へ届かせる前に何か透明な壁に阻まれ、バシッと弾かれた。
「ギャウンッ」と悲鳴を上げ、地面に勢い良く転がる。
え?
「貧狼!? どうしたんや!?」
驚くゆらちゃんだったが財布から再び式神を取り出し構えると、キッとお母さんを睨む。
「何をしたんや!」
「妾は何もしてないぞよ? 勝手にそやつが自滅したのじゃ」
「ウソつくなぁ!」
「いや、本当だよ?」
ゆらちゃんとお母さんの会話に、お父さんが優しい声音で割り込む。
「君は陰陽師かな?」
「そうや。京都、花開院家の陰陽師や! おっさん、はよう逃げぇ!」
その言葉にお父さんは軽やかに笑った。
「ははは。この雷獣は人間を傷つける事なんてしないよ。ねぇ、芙蓉」
「当り前じゃ。人間を傷つけたらお主(ぬし)に嫌われてしまうからのう」
猫のように身体を擦りつけお父さんに甘えるお母さんの姿に、ゆらちゃんは眉を顰めた。
「どういうことや?」
と、私達を囲んでいた人々が、ざわめき声を上げ出した。
「なんだ、あれ!?」
「おい、お前の見たっていう変な生き物ってあれか!? 怪物じゃねーか!」
「いや、オレの見たヤツよりでかい!」
「キャーッ!妖怪ぃー!」
私は皆が見ている方を振り返った。
そこには、異様な”力”を漲らせた玉章が居た。
斬り殺した四国妖怪達の魂か何か判らないが、色々な部位が混ざった気持ちの悪い大きな塊を自分の身体に融合させていた。
数倍の大きさになった玉章に奴良組の妖怪達が特攻を仕掛ける。
だが、その攻撃は一つも通じなかった。
玉章が右手に持った刀を一振りすると、その刀の威力に皆吹き飛ばされる。
その恐ろしさに小さく身体が震えた。
でも…
自分の長い爪を見る。
私には戦う”力”が、ある!
止めないと!
私は玉章に向かって駆け出すと”力”を操り、雷を玉章に叩きつけた。
「雷撃!」