第9章 覚醒
夜雀の身体は空中から落下する。
地面に落ちた夜雀の身体はピクリとも動かない。
はじめて使った自分の”力”に心臓がドキドキする。
そして、動かなくなった夜雀の姿に自分の”力”が怖くなった。
でも、自分の動揺に構っていては、玉章と戦えない!
ぎゅっと拳を握ると視線を前に戻し、玉章を見た。
と、後ろから肩に手を置かれた。
「サンキュ。舞香。お陰で見えるようになったぜ」
振り返るとそこには、口の端を持ちあげながら、しっかり前を見据える夜リクオ君が居た。
え?
「あ、見える。若! 私も見えます!」
前には嬉しそうに目を輝かせながら、ふりむく氷麗ちゃん。
もしかして、夜雀を倒したから、見えだした?
「あ……」
よ、良かった……
ほう、と息を吐き出す。
と、前に進み出た夜リクオ君は、挑発するように玉章へ口を開いた。
「残念だったな。豆狸」
玉章はゆっくりと周りを見回した。
もしかしたら、強力な技を持つ味方を捜しているのかもしれない。
しかし、周りには奴良組の妖怪達に押される四国妖怪達の姿しか無かった。
と、玉章の纏っている空気が変わる。
何?
「どいつもこいつも、役に立たない奴らだね……。せめてその身をボクに捧げろ!」
その言葉と共に両サイドの髪を掴むと、連獅子の毛振りのように頭を回し始めた。
髪の先には、ボロボロの刀が巻きついている。
その刀は、刃零れもしていない新品の刀のような切れ味で、四国妖怪達の身体を切り刻んで行った。
髪を回すスピードが有り得ない程速い。
そして悲鳴を上げながら斬られた四国妖怪達の身体は、黒い霧となり、玉章の身体の中に吸収されていく。
「リクオ様、危険です! お下がり下さい!!」
氷麗ちゃんが夜リクオ君に駆け寄り、腕を引く。
そして私も襟首を後ろからグイッと引っ張られた。
「舞香。下がるのじゃ」
「お母さん。…、うん」
私はそのままお母さんに連れられ、玉章から50メートルくらい離れた場所に移動した。
そこは歩道の傍だった。
野次馬で集まって来た一般人達が少し先に居る。
と、主にお母さんを畏怖の目で見ていた人達の間から、何故か制服姿のゆらちゃんが現れた。
お母さんと私を見ると、さっと式神を構える。
「そこの妖怪! 人を害する事はこの私が許さへんで!」