第9章 覚醒
何も考えが浮かばない。
オロオロしている間に、2人の戦いは始まった。
斬りかかる玉章に、紙一重でかわす夜リクオ君。
そして、夜リクオ君の持つ刀が玉章目がけて縦に振り下ろされる。
それを持っているボロボロの刀で受ける玉章。
2人の持つ刀は、何度も音を立てて交り合った。
そんな攻防の中、夜リクオ君は挑発するように薄い唇の端を持ちあげ笑った。
「玉章。こんなぬるい攻撃じゃ何度やってもオレには、届かねぇぜ?」
「……。奴良リクオ。それは君の方だよ。その怪我でボクの攻撃をいつまで受けれるか見物だね」
「こんなもん。怪我のうちに入らねぇ」
再びガッと刀を交わし、離れ距離を取る。
と、玉章は小さく喉の奥で笑うと、ダランと刀を持った方の腕を下げた。
「夜雀。出番だ」
その言葉と共に、夜リクオ君の上空に黒い影が現れた。
それは黒い翼を持ち、狐文字が書き綴られた布で顔を覆い隠しているポニーテールの少女だった。
夜雀?
また原作の知識を思い出す。
夜雀。確か、夜雀の翼が放った細やかな羽根が目に刺さると、暗闇に包まれる。
「その羽に、気をつけて!」
「何?」
思わず叫び声を上げた私に反応した夜リクオ君は、その隙を突かれ両眼を夜雀の黒い翼で覆われた。
「奴良君!」
「クッハハハハ、これで反撃も出来ないだろう。このままボクになぶり殺されるがいい!」
何故か私は夜リクオ君の元へ駆け出していた。
「舞香!? どこに行くのじゃ!?」
お母さんの慌てたような声が聞こえたが、頭の中は夜リクオ君の事でいっぱいだった。
ダメ!
ここで死んじゃダメ!
身体がいつもより軽い。
あっと言う間に夜リクオ君の元へと辿り着くと、見えなくなった目を片手で押さえる夜リクオ君を庇うべく両手を広げ、目の前の玉章と夜雀をきつく見据えた。
玉章はそんな私を怪訝そうに伺う。
「雷獣の娘。何故、敵を庇う?」
「敵、じゃない。友達!」
「クククッ。肩を食いちぎったのにかい?」
「……、そ、れは……っ」
言い返せない。
と、ふいに後ろから右肩を掴まれた。