第9章 覚醒
私は笑い声が上がった方向へ視線を動かした。
そこには、歌舞伎獅子のような衣装を纏い、白く長い髪に仮面を被った妖怪が錆びた刀を右手に持ちながら、佇んでいた。
その姿を目にしたとたん、その正体が頭の中に思い浮かんだ。
玉章。四国八十八鬼を率いて攻めて来た、狸妖怪。
漫画『ぬらりひょんの孫』の四国編で出て来る敵だ。
味方も自分の駒としか思っていない妖怪。
って、なんで私、四国妖怪の仲間になろうとしてたんだろ?
お母さんの為とは言え、原作の知識があったら、あんな奴の仲間なんて、絶対ならないのに。
ここ数日の出来事を思い起こして、何故仲間になろうとしていたのか、その理由を思い出そうと努力していると、妖怪姿の玉章は私に向かって左手を差し出した。
「有永舞香。君は”力”をボクらに示したんだ。さあ、この手を取り、共に正義の鉄槌を下そうではないか!」
その言葉に玉章との会話が蘇る。
お母さんがこの町を出たのは、ぬらりひょんさんにも一因があるかもしれない。
でも。
お母さんはぬらりひょんさんを憎んでない。
私はキッと玉章を睨むと首を横に振り、拒絶の意を伝えた。
その答えに玉章は無言で左手をゆっくりと降ろす。
「それが君の正義か……」
四国編の玉章を見る限り、正義がうんぬん言う立場じゃないと思う。
夜リクオ君もそう思ったのだろう。
玉章に蔑んだような視線を送りながら、口を開いた。
「はっ、おもしれぇ。豆狸が正義うんぬんぬかすのかい?」
と、玉章は、仮面に手を当て、ククク、と忍び笑いを洩らした。
「ボクは四国妖怪達にとって最善の正義の道を選び取ってるよ」
「おお!流石は玉章様!」
「我らが大将!!」
倒れていない四国妖怪達が、喝采を送る。
玉章は四国妖怪達の声援に鷹揚に頷くと、錆びた刀を構えた。
「それじゃあ、奴良リクオ。仕切り直しと行こうか」
「おもしれぇ……」
夜リクオ君も刀を右手に構える。
と、氷麗ちゃんが夜リクオ君の腕をガシッと掴んだ。